2011年5月28日土曜日

【報告】シンポジウム:私にとっての3・11

2011年5月16日(月)、中野区内で、表題のシンポジウムが開催された。

基調報告1:佐藤隆雄:独立行政法人防災科学技術研究所客員研究員、安全・安心な社会創造研究所代表
「検証3・11 東京の防災計画を見直す」

基調報告2:日置雅晴 :弁護士、景観と住環境を考える全国ネットワーク代表
「東北・福島からの報告」


特別報告:警察大跡地裁判の現状:富田裕弁護士(防災公園裁判)、花澤俊之弁護士(地区計画等裁判)

佐藤隆雄さんは、都市計画の立場から酒田市の大火、阪神・淡路大震災などで現場を踏まえた防災・災害復興に関わってこられた。
 今回のご講演では、専門家であると同時に被災地大船渡出身、50年前のチリ津波経験者であり、迫力と説得力のある3.11の被害と復興についての報告をしていただいた。安全・安心な社会計画には、都市、国土、政治、社会システムの整備を必要とするという観点から、東京都の防災計画は不十分であると指摘された。以下は発表の要旨。

○復興は「医職住」の回復

今回の災害は、想定外といわれている。たしかに津波は想定地域を越えた。

しかし、そもそも災害というものは想定外である。奥尻沖地震の津波から20年、阪神・淡路から15年、被災の教訓は今回生かされているとはいえない。

復興とは「医職住」が回復することをいう。

被災各地の状況を見ると被災者が自主的に復興に動いているところはうまくいっている。行政はサポート、支援をする立場であるが、都(自治体)が住民の自助を求めるのは意味がちがう。それだけでは不十分である。

○地震と津波の被害は全く異なる

今回の地震と津波では、被害者2万人超、家屋倒壊10万戸、今後仮設住宅10万戸が必要とされている。

3.11以降、マスコミ報道、防災評論家の発言、提案では直下型の阪神・淡路大地震からの経験からの的を射ないものが目立った。なぜならば地震と津波の被害は全く異なるからだ。地震は家が壊れるが、電気・電話は比較的早く復旧する。津波は一切が流されて無くなる。電話がつながらなかった原因は、回線の混雑からではなく電話局が流されてしまったことによる。

避難した人びとの多くは厳しい寒さのなかで濡れた衣服のまま避難生活を始めた。そこで以下の10項目を10カ条の提言としてまとめて各方面へ提出したが、反応は鈍い。

1.情報・通信施設の整備
2.全国の給油車配備によるガソリンなど各種燃料の供給
3.食糧不足の状況把握とその解消
4.自治体・水道局のタンク車派遣

5.薬の手配
6.防寒用カイロ、衣服の手配
7.政府による現地本部の設置
8.ボランティア団体の支援受付と被災地への派遣
9.近傍の被害の少ない自治体に後方支援基地を設置
10.報道機関のエリア別担当による詳細情報の提供


7.の現地本部設置は、阪神・淡路(1月17日発生)では、4日後1月21日に本部設置の閣議決定、翌22日には神戸に設置された。今回(3月11日)は、4月8日になって宮城県に本部設置となった。

9.の近傍市の後方支援基地では、岩手県の場合は遠野市がその役割を果たした。また、住田町では、独自の判断で気仙杉を使用した仮設住宅を造った。基礎自治体からの自主的支援の臨機応変な対応は、時として現行法制度に合わないことから国地方の判断が柔軟性に欠けている場合に妨げられ遅延した。

大船渡(旧気仙地方)一帯の被災状況は、入江ごとに点在する小集落それぞれで異なる。報道されているのはほんの一部である。

また、災害は忘れたころにやってくるというが、以前の教訓から吉原町は、高台に移住して、低地で稲作をしていた。犠牲者は農機具を取りに行った方1名、津波で壊れた家は3戸だった。他方、既存の集落は高地に移住していたものの、のちに再び低地居住が起こった地域では被災している。

○首都直下の復興の課題

首都直下型地震が発生した場合の復興には以下の4つの課題がある。

1.持ち家の復興
2.借地層の復興
3.マンションの復興
4.中小企業の復興


首都の現状の課題としては、

1.一極集中の是正、
2.安全・安心な東京への改造、
3.国土再編、国土改造の課題


○具体策のない現防災マニュアル

現在の防災マニュアルは住民主体の具体策が描かれていない。

東京湾北部にマグニチュード7.3(阪神・淡路大震災規模)の直下型地震が発生した場合の東京都2006年の試算では、被害者6400人、負傷者16.1万人、避難民399万人、帰宅困難者448万人の人的被害が予測されている。

東京都は地震災害の軽減策として直接被害を軽減する自助(耐震化、家具の倒壊防止)、二次的被害を軽減する共助(地域の消火活動、救出活動)、これを支える公助として災害に強いまちづくり(滅災対策、事前復興)を挙げている。

3.11では、東京は震度5強であったが、交通網はほとんど停止・運休になり、帰宅困難者総数は650万人、東京都ではおおよそ300万人と言われている。東京都での14万人をはじめ山手線主要駅では10万人前後が滞留した。

二次災害はなかったものの、震度7.3の規模であった場合の被害想定は、低すぎるのではないか。
公助で上げている、災害に強いまちづくりには、今後は以下の項目で見直しが必要であろう。

① コンパクトシティの形成

中心商業地の活性化、都心居住、郊外住宅地、後背農山魚村における居住再編=都市部から通う農林漁業、等

② 地産・地消を重視した安心・安全な消費文化の形成

食料自給率のアップ、産直の流通システム確立、農業の複合経営化、等

③ 環境に配慮した地域エネルギーの活用と振興 

風力・地熱・バイオマス・水力、等 

④ 合併による広圏域地域に対する行政サービスの効率化 

地域の福祉、安心・安全にかかる指針及び基準の策定

  1)各種施設配置要件指標の見直し

    医療・福祉・教育・安心安全(消防力・豪雪)・ゴミ処理、等

  2)各種地域指定要件指標の見直し 

⑤ 地域自治機能のあり方

合併による広域圏地域の自治機能の確保、自治区の設定、等       

以上

講演では、被災地の様子を多く見せていただいた。密集市街地の防災対策には、自助(個々人の努力)はもとより、都市計画決定の主体となる基礎自治体による災害に対する脆弱な地域性の認識がなによりも求められる。

区民、帰宅困難者への人的支援とともに、耐震など建物のハードな整備と共に避難場所など災害発生時の避難面積の確保、機能的整備が不足しているのではないか。改めて、官民を問わず、都市生活者として先の阪神・淡路大震災と今回の東日本大震災から学びたい。

日置雅晴弁護士は、日弁連災害対策本部原子力プロジェクトチームの一員として福島県内を調査した報告から、同一地点でも高度で空間放射線量が異なること、福島県庁近くの側溝内も放射線量が高かったことを示した。

今回の福島第1原発事故は、「人災」であり、最初から「損害賠償」として問題解決に当たることが大切で、今後は下水道からの放射性汚泥の処理問題など、困難な問題が山積していることも強調した。

【日置弁護士の基調報告から】

「福島・飯舘に行ってきました。

飯舘村は、原発とは対局の路線のような村おこしがようやく軌道に乗りかかっていたきれいな村です。
 
健康に影響はないと言いながらマスコミはほとんど取材に来ないと副村長はいっていました。

福島も学校校庭の年間20ミリシーベルトが問題となっていますが、県庁の側溝を計ると20マイクロ/時という高レベルでした。すぐに避難をさせるかは、地元の人の意見を聞くと生活などの問題がありそう簡単ではないと思いました。

でも少なくとも被曝量を少しでも軽減することは直ちにやるべきです。

校庭の土の入れ替え、フィルター付きエアコンの設置、高性能マスクの供与等はすぐにやるべきだと思いました」。



福島県庁脇の側溝で測定、20μSv/h

飯舘村の牧草地で測定、12.6μSv/h

飯舘村の放射能値

地表面から1mの空間線量率(μSv/h、4月29日換算)



【参考】日弁連の原子力発電所関係について

    東北地方太平洋沖地震による福島第一原子力発電所の事故に関する会長声明(3月25日)
    原子力損害賠償紛争審査会の構成と議事運営の改善について(要望)(4月22 日)
    東日本大震災後の日本の温暖化対策に関する会長声明(4月22日)
    「福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」に関する
     会長声明
(4月22日)→(英語版へ)
    原子力損害賠償紛争審査会における一次指針の策定に関する会長声明(4月28日)
エネルギー政策の根本的な転換に向けた意見書(5月6日)
  東京電力福島第一原子力発電所事故の原因を究明する「事故調査特別委員会」における
     委員の人選についての要望書
(5月12日)
    福島第一原子力発電所から排出された放射性物質による汚染物の処理についての緊急対
策を求める会長声明
(5月13日)


【参加者の発言と質疑応答】

参加者N:携帯もケーブル電話もパソコンメールも通じなくて、安否確認の連絡をとるのが大変だった。

結局、現地からの連絡待ちで、連絡が入るまでに数日を要した。

被災地では、役所の電話機一台を住民が順番待ちで使っているという情況で、日ごろから緊急時に備えた通信手段の確保がもっとしっかりなされている必要のあることを痛感した。

参加者H:地震時に区役所にいた。

緊急時には、難聴者、視覚障がい者など「弱者」への対応が大事だが、これができていない。

難聴者の場合、まわりの人もすぐにはわからない。

職員の対応のありかたも含め、普段から、障がい者等の「弱者」対策を立てておくことが求められている。

参加者T:今回のような災害の廃棄物の処理について、対応がまるでできていない。

ストックヤードの確保などもそうだが、放射能汚染物を含め、平時にきちんとした対応システムをつくっておくべきだ。

日置弁護士:放射能関係だけでなく、災害廃棄物にはアスベストやダイオキシンなどのこともある。

これらのことを考えたら、事後にどう処理するかといっても大変すぎる。

こういうものは普段から使わないようにしておくといったことを考えるべきで、今回のような事態になったら、実際にはうまく対応できないということになる。

参加者X:あらかじめ復興の手法を考えておくというようなことも必要ではないか。

佐藤さん:東京では、瓦礫でゼロメートル地帯を盛土にするという構想もあるが、長い時を経た自然地盤に比べると弱すぎる。

事前の復興ビジョンのありかたなどについては、押しつけではなく、住民を入れてよく検討しておいたほうがいい。

東京のような大都市では、「東京圏」という規模での対応策も考えておく必要がある。

帰宅困難者ということを考えても、都内だけでも数百万人にのぼる。

緊急食料、医薬品、トイレなどを考えただけでも対応はきわめて不十分だ。

さらに、超高層ビル。長周期地震動で配管等が破損しライフラインが止まる。

エレベーターが使えなくなる。階段を使っての生活は、上部階では考えられない。

田中角栄内閣時代には、評価の問題はあるにしても、「列島改造論」として、ある種の地方分散論のような考え方があった。

これが中曽根内閣の時代から東京への一極集中にすっかりかわってしまった。

いま、首都圏人口は、4000万人。とても災害にもろい圏域を構成している。

参加者I:放射能の規制値が各国で違っているが、たとえばアメリカに比べEUの方が厳しいというようなことになっているのでは?

日置弁護士:必ずしもそうではない。

規制値の決め方だが、いろいろな考え方があって、この数値なら絶対大丈夫というような決め方になっているかと言えば、そうとはいえない。

むしろ、安全やコストなどいろいろな側面を考えて折り合いをつけているということではないか。

そのようにしかできないということだ。

佐藤さん:2007年の新潟県中越沖地震のとき、柏崎刈羽原発では、防災センターが機能しなかった。

コンビナートなどは二重・三重の防護策が講じられているのに、原発の方は全くお粗末だ。

今回の福島をみても、刈羽原発での経験がまるで生かされていない。

◇ ◇ ◇

最後に、下北沢の裁判原告の方からの報告と、警大跡地裁判の原告から、次回6月3日の口頭弁論への傍聴のお願いでシンポジウムは終わった。

【関連参考情報】

政府は内部被ばく隠している-矢ヶ崎琉球大名誉教授が御用学者の安全論に警鐘鳴らす(2011年05月23日)

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