2010年11月20日土曜日

トイレが大変 災害時の教訓 図書紹介

山下 亨『阪神・淡路大震災と新潟県中越大震災の教訓 トイレが大変!―災害時にトイレ権をどう保障するか』(近代消防社、2005/08)
 
「本書は、災害時に避難所などでのトイレ混乱という点にのみ焦点を当て、災害時のトイレ権をどのようにして保障したらいいかについてとりまとめたものである。 」 (「BOOK」データベースから)

「都市型マルチ災害だった阪神・淡路大震災、都市生活機能を備えた中山間部災害の新潟県中越大震災。この二つのトイレ混乱を回顧して、国民一人ひとりの災害トイレ対応のあり方を問い直し、災害時のトイレ対策の箍を締め直す。 」(「MARC」データベースから)
 
山下 亨『トイレって大事!―災害救援ガイドブック』 (近代消防社、2006/12)

「「トイレ」の目線で考えると、大震災に備えて本当にしなければならないことがわかってくる。3つの大震災トイレ事件簿、避難所でのトイレの安全管理、平素の公共トイレ危機管理、災害用トイレ製品情報などを収録。 」(「MARC」データベースから)


著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」から)

山下 亨
1949年岡山県に生まれる。1974年3月神戸大学法学部卒業。兵庫県庁、自治省、経済企画庁、小笠原総合事務所、地方公務員災害補償基金、消防庁、日本鉄道建設公団国鉄清算事業本部、消防団員等公務災害補償等共済基金、消防大学校、(財)救急振興財団等を経て、現在、日本消防検定協会。日本災害情報学会会員、日本トルコ協会会員、日本トイレ協会会員、災害トイレ学研究会代表、災害文化研究会代表世話人、千葉県オストミー協会準会員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

2010年11月14日日曜日

防災公園裁判、第6回口頭弁論

専門家による意見書を提出

11月11日(木)、中野・警察大学校等跡地にできる防災公園の面積縮小の違法性確認を求めている裁判が開かれました。

原告側は今回、都市防災学の専門家である元早稲田大学教授・村上處直先生の意見書を、中野区が主張する防災公園」が、本来の防災公園としての機能を備えていないことを立証する証拠として提出しました。

以下は村上氏の意見書です。

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2010年11月5日

意見書

東京地方裁判所民事第3部B1係 御中

元早稲田大学教授
防災都市計画研究所会長
村上 處直


東京地方裁判所平成21年(行ウ)第253号 都市計画決定違法確認請求事件及び第428号 都市計画決定違法確認請求事件について、防災都市計画を専門とする立場から以下のとおり意見を述べる。

①    高さが不揃いな高層ビルのリスク

被告、中野区は準備書面(1)において次のように述べている。

「また、被告は、今後、警察大学校跡地に建築される建設について、建物の不燃化、建物相互間のオープンスペースの確保及び樹木の適切な配置等について指導誘導していく方針であり、これらの措置が適切になされれば、延焼被害あるいは大規模な輻射熱や熱気流による被害も減少し、大規模な公園のみ設置するよりもむしろ災害時の危険拡大を防ぎうるのであり、当初の計画と比べて公園面積が減少したからといって、これらにより原告らを含めた区民の安全が脅かされるものではない」

上記の書面において中野区が想定している火災は、地震時の同時多発火災で危惧される火の粉を含む乱気流の危険性を考慮していない。大火災時の乱気流を防ぐには、中野区が述べる建物の不燃化や建物相互間のオープンスペースの確保だけでは不十分であるばかりか、逆に乱気流を加速させる可能性が大きい。

なぜなら、大火災時の火流は周辺環境と違うところをねらって入り込んでくるからである。跡地周辺の中低層の住宅と違って、高層ビルが林立する跡地は火を誘い込む可能性が高い。また、ビルとビルの隙間があれば火流はそこから侵入する。建物の高さがそろっていなければ、火災時に火の粉を含んだ乱気流が発生する恐れが強い。跡地に計画が予定されている高層ビルは高さが不揃いであり、隙間を塞ぐ工夫も施されていない。また、たとえ不燃化された高層ビルであっても、窓ガラスやファサードなどの開口部の破損により火の粉が入り燃え上がる危険性がある。

さらに、同公園を含む広域避難場所の安全性を考えたとき、周辺市街地の火災に対する脆弱性を無視できない。跡地を含む「中野区役所一帯」は東京都によって広域避難場所に指定され、約10万人が避難することになっている。しかし、跡地が接する早稲田通りの北は、東京都が定める火災危険度5あるいは4の火災に弱い木造密集市街地が集中している。また西側の杉並区も同様に木造密集市街地が広がっている。そのため、震災時、火災が発生し、同時多発的に数ヶ所の延焼面積が2000㎡を超えた場合、一気に乱気流を含む大火に至る恐れが強い。

同公園周辺市街地の不燃化が進んでいない現状では、1923年に起きた関東大震災の際、大きな被害を出した本所陸軍被服廠跡地の状況と酷似している。当時、墨田川に近い6.7ヘクタールの跡地及び周辺の資材置き場を含め約9ヘクタールの場所には多くの人が避難し、火災旋風に襲われ約4万人が死亡した。

②    防災公園の面積・機能ともに不足


同公園の面積が当初の4ヘクタールから1.5ヘクタールに縮小したことによって防災の機能面で以下の2点で大きな不利益が生じる恐れがある。

(1)広場機能の縮小

防災公園内の広場には、市街地大火の輻射熱からの安全性とともに、想定される災害救援活動(車輌やヘリコプターの進入、テント野営、救援物資の搬入など)が展開できるオープンスペースとしての機能が重要だが、今回の縮小によって災害時に柔軟に使用できる面積が大幅に失われている。乙33号証によれば、同公園は広場空間(大)、広場空間(小)、水景広場、林間広場の4空間で構成されているが、これらの広場を防災空間としてどのように利用するかについては詳述されていない。

一方、中野区地域防災計画(平成19年修正)の「第4節 オープンスペースの確保」(同23頁)は、「オープンスペースは、災害時における避難者の安全確保や火災の延焼防止に役立つだけでなく、がれき処理や物資の配給等の応急・復旧活動時の様々な対策を円滑に行うためにも重要な役割を果たす。中野区のような都心区において、オープンスペースを確保することは、困難ではあるが極めて重要な課題である。(後略)」としている。

  この点について、中野区は「防災公園の縮小分を民間事業者からの提供によるオープンスペース1.5ヘクタールで代替し、全体として3ヘクタールを確保」と反論している。しかし、その部分は、多目的に活用できる芝生などのグランドカバー植栽でない上、大型車輌の加圧やヘリコプターの離着陸にも弱いタイル地舗装が予定されており、防災機能への配慮に欠ける。

(2)不十分な防災施設

乙33号証によれば、同公園には防災施設として、災害時にも利用できるトイレ12基、防災井戸、マンホールトイレ、防災倉庫、非常用照明を設けるとしている。

なお、原告の友人が中野区公園・道路分野に問い合わせたところ、マンホールトイレ数は20基また防災井戸の数は2と判明した。

同公園が約10万人の広域避難場所の中核として機能するには疑問が残る。例えば、極めて 深刻な課題である災害時トイレは、阪神淡路大震災、中越地震、中越沖地震などを経て、避難住民70~100名に1基が必要との認識が定着しており、少なくとも960基の整備が必要である。現計画の32基では不足している。仮に整備するにしても、1基あたりおよそ2㎡が床面積として必要であり、総面積は約2000㎡となる。必要面積は公園のおよそ13%を占める計算になる。言い換えれば、限られた公園面積において災害時トイレなどの防災施設の充実を図れば図るほど、避難有効面積が減少するジレンマに陥る。

また、同公園に避難する市民を火の粉や飛び火から守るためには出入口のシャワーや放水銃、それを支える地下貯水槽の設置などによる水の確保が不可欠である。しかし、当該計画では、生活用水としての70立方メートルの水景広場と2本の防災井戸、また同地区内に建設される予定の建物、すなわち東京建物のオフィス・商業ビル、帝京平成大学、早稲田大学にはそれぞれ40立方メートルの防火水槽しか設置の予定がなく、明治大学においては皆無である。10万人が避難する予定の広域避難場所の中核である防災公園の水の備えとしては不十分である。

他方、杉並区立蚕糸の森公園は隣接する小学校敷地と合わせて4.2ヘクタールで広域避難場所に指定されている。公園出入口に火の粉の流入を防ぐシャワーはじめ公園地下には、水量1500立方メートルの震災対策用応急給水施設、隣接する300立方メートルの小学校のプールなどを配置し水を確保することで広域避難場所として指定されている。

③新たな都市計画では一人あたりの避難有効面積拡充を

避難者1人あたりの避難有効面積の根拠について、「平成17年度 避難場所等の安全性に関する調査 避難場所の安全性に関する考え方、方針に関する報告書」(東京都)は、次のように述べている。

「東京都防災会議(昭和41年3月)『東京下町地区の大震火災時避難に関する研究(その1)』において、1㎡/人と設定された。
故浜田稔博士は、「多人数を1人/㎡(=1㎡/人・筆者追記)に収容することは、常識的には過密であり、少なくとも0.5人/㎡(=2㎡/人・筆者追記)程度に計画したいのであるが、(中略)大火災が一応収まる時間(最も厳しい時間は1~2時間程度、それ以後は準安全面積も漸次安全面積となる)だけの避難であるから、1人/㎡(=1㎡/人・筆者追記)でがまんすることとする。」としてる。(浜田稔、1974『東京大震火災への対応』日本損害保険協会)。」

すなわち、東京都においても設定当時から1人当たりの避難有効面積が1㎡では不十分であることは明らかに認識されていた。

その他の地域防災計画等の指針における基準においても、「都市防災構造化対策に関する調査報告書」(建設省、平成8年10月)では原則として1人当たり2㎡以上とし、「都市防災実務ハンドブック」(建設省都市局都市防災対策室監修、平成9年9月)も2㎡以上とし、但し、地域の実情により1㎡以上とすることができるとしている。さらに同報告書は、「場合によっては数時間以上同じ場所で耐える必要があり、ある程度の広さを確保しなければならい状況を考えると、1人1㎡は過密ともいえる。今後も、できるだけ1人1㎡以上の避難有効面積を確保できるよう防災対策の充実に努める」としている。(P91)

これに対し、中野区が算定した避難対象想定人口は10万7193人(乙32号証)であり、1人当たりの避難有効面積はわずか1.09㎡に留まり、座るのもままならないスペースに留まる。なお、この想定人口の妥当性への疑問については後述する。今回のような新たな都市計画決定においてはできるだけ一人当たり避難有効面積を2㎡以上をめざすべきである。
 
④広域避難場所「中野区役所一帯」の避難人口想定は過小

「広域避難場所「中野区役所一帯」の将来人口想定」(乙32号証)は敷地面積を学生1人当たりの面積で除することで学生数を割り出しているが、その計算式自体が意味不明である。大学の昼間人口に関しては、学生数を採用した方が適切である。

2010年9月7日に開催された「帝京平成大学中野キャンパス計画工事に関する説明会」での会場からの質問に対して、帝京平成大学は学生・教職員数を4000人とし、また、9月30日に開催された「明治大学中野キャンパス建築計画の見直しに関する説明会」において、第1期工事分では学生2500人、教職員150人(なお第2期工事は未定)と回答している。

また、区域4、区域5の建物は業務商業の用途であるが、本来、買物客、通勤客及び帰宅困難者等の人数を加えるべきである。仮に、買物客として3000人を見込むと、その人数を加えた方が適切である。結論としては、避難場所「中野区役所一帯」の将来人口想定として、被告の想定より少なくともおよそ7000人多い11万3975人と考えるべきである。現在の建築計画では、避難有効面積として10万9882㎡とされている(乙27号証)。そのため、1人当たりの避難有効面積は0.96㎡になり、1人当たりの避難面積1㎡を下回る。

結論

私は、市街地大火の危険性を体験・熟知し、研究していた諸先輩の薫陶を受けた最後の世代である。木造密集市街地に囲まれた同跡地における中野中央公園の安全性には重大なる憂慮を禁じ得ない。