中野区の「警察大学校等跡地開発計画は、周辺の環境を悪化させる」として、「地区計画の取消」を求めて周辺住民が東京都を訴えている裁判の第5回口頭弁論と、「『中野区中野四丁目地区における建築物の制限に関する条例』(地区計画条例)の取消」を求めて同住民が中野区を訴えている裁判の第1回口頭弁論(事実上併合)が、2010年8月26日(木)東京地裁522号法廷で開かれました。
行政の説明責任
第3回口頭弁論(4月22日)で裁判長は、被告東京都に「これまでの原告の準備書面に対する必要な認否・反論」を指示したのに対し、第4回口頭弁論(6月10日)で東京都が提出した準備書面は、ほとんどの求釈明には触れぬまま、原告が4月22日に求釈明の追加で求めた「緩衝帯型オープンスペース」の定義についても、それまでの主張を繰り返すに過ぎませんでした。
しかもこれは、第3回口頭弁論で裁判長がその定義について回答するよう求めたのに対して、東京都が「中野区が対応したことであって、東京都としては答えられない……」と回答し、裁判長から「都市計画決定にあたり都は中野区と情報交換をしているはず。東京都の立場でどのような情報の把握をしているのかを説明するのが基本である」と指摘された部分です。
裁判長はすでに、第3回口頭弁論で「議論の対象は出揃った」とし「結審」の方向性を示しています。
にもかかわらず東京都は、第4回口頭弁論でも、今回の第5回口頭弁論でも、その書面において原告の求釈明に答えていません。
こうした都の姿勢を、今回の原告側準備書面では「被告は原告の求釈明に一貫して、『答えようとする態度を示しながら、全く答えていない。』」とし、「本件が訴訟にまで至った大きな理由として,原告ら住民に対する被告の説明不足が指摘される」と、被告都の説明責任について指摘しました。
一方裁判長は、「東京都は原告の求釈明に対して、骨格の部分には答えている。原告は今後、求釈明に対し都が答えていない部分について主張した方がよい」という認識を示しましています。
当事者は誰か?
裁判で争うことができるのは、違法であるか、合法であるか、です。
跡地の開発にあたって中野区は各事業者と、「賑わいと環境が調和した安全なまちを実現するため」『警察大学校等跡地のまちづくりに関する覚書』を取り交わしています。
すでに工事説明会を終えた事業者もあるなか、覚書についてどの程度実行されているのか問い合わせても、中野区も事業者もはっきりと回答できないまま工事や計画が進んでいます。
行政は、「原告適格」と「処分性」を盾に争う必要はないという姿勢を一貫し、その責任の所在すら行政同士で譲り合っています。
開発事業者は、計画が合法でさえあれば法的拘束力のないものについては考慮する姿勢を見せないものも少なくありません。
多くの人が「何か変だ」と思っても、その不合理を示す指標が法律の中にない以上、司法は現在の法律の中での判断を下さざるを得ない、という姿勢を崩しません。
とすれば、私たち一般「市民」は、いったい誰と手を組めば良いのでしょうか?
行政のための空間、事業者のための空間、司法のための空間がそれぞれ別にあれば問題は起きないかもしれません。
しかし、私たちの暮らす「場所」はたった一つしかないのです。
活発化している法改正への動き
7月に行われた「訴訟提訴1年の報告集会」で、原告側弁護団の日置雅晴弁護士から「相次ぐ爭訟や自治体の動き・社会状況の変化と相まって、理念の明確化をめざす建築基本法制定や建築許可制の取り入れなど法改正への動きが活発になってきている。今後1~2年が正念場になる」とのお話を聞きました。
現在全国各地で行われている訴訟の一つひとつが、未来の「場所」の礎石になることを願わずにいられません。
2010年10月2日土曜日
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